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ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 ブログトップ
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弦楽四重奏聴き比べ <ベートーヴェン:「大フーガ」> その⑩ [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]

24. タカーチ四重奏団 (DECCA) 2003-2004年録音
14'28''

 レコード・アカデミー賞を受賞した鳴り物入りの全集セットのうちの一枚。彼らの音色は幾分くすんだほの暗い音色であり、四本の線が繊細に絡まり、それでいてフォルティシッモでは見事に溶け合った自在な表現を聴かせる。

 この「大フーガ」は冒頭が何とも薄っぺらいのが残念だが、音楽が激してくると凄まじいアンサンブルを聴かせる。クリーヴランド四重奏団や東京カルテット、メロス四重奏団が聴かせた機能美・構築美をここでも堪能できる。しかしながら、3団体と違うのは激情になる一歩寸前で踏みとどまった柔和さがあることであり、飄々としたユーモアさえ香りのように漂わせるところが見事なのである。

 ただ、フーガの持つ重厚さはない。それはテンポの速さも関係があるのかもしれないが、14分半程度というのは相当な速さである。ハンガリー四重奏団の旧盤がほとんど同一タイムであるくらい。

 アンサンブルとしては満点だが、それがどれほどベートーヴェンを体現しているかが気になった。上手いなと思わせることがあっても、感動につながらないのである。これはどうしたことだろう。どんなに深刻な表現を聴かせ、ヴァイオリンがいくら泣き叫んでもポーズのようにしか感じられない。ムード的と言ったら言い過ぎだろうか。何かアルバン・ベルク四重奏団に似たところがある。もっとも、アルバン・ベルク四重奏団と違うのは形骸化した情緒は一切ないことで、これは好ましいことだけれど。

 レコード・アカデミー賞なら、前回挙げたゲヴァントハウス四重奏団に上げたい(あのレコード・アカデミー賞というのは、本当によくわからなくないですか。あれだけ嗜好の違う評論家達がこぞって絶賛し、意見がまとまっていくということ自体が不思議です。確かに受賞にふさわしい作品もあるが、受賞しておいて大したことがないと、マージンでももらっているのかと疑念を持ってしまいます。だから、現代にあって私がCD選びの参考にするのは、個人のBLOGやHPなのです)。

25. ウィハン四重奏団 (LOTOS) 2005年録音
15'48''

 これは素晴らしい演奏である。スタイルとしてはタカーチ四重奏団に似ているのであるが、彼らの場合はきちんと真実の表現に聴こえる。また、音色はスメタナ四重奏団を想起させる懐かしさがある。速いテンポでフーガを刻んでも、情緒的なそれでいて美酒を思わせるような第1ヴァイオリンの節回しが耳を喜ばせる。フーガは一本調子ではだめなのだ。どんなに複雑な音符の絡み合いがあろうと、機能美と構築美を優先してばかりではベートーヴェンにはならない。ベートーヴェンはモーツァルトよりも遙かにメロディーに頼って音楽を書いた人物である。旋律線を聴かせなければ、活かさなければ。すると、怒り、悲しみ、ユーモア、哀感、様々な情感、複雑な味わいが出てくる。これが「大フーガ」の魅力ではないか。緩やかな部分の繊細さはどうだろう。

 第1フーガの再現では、気持ちテンポを落とした心の込め方が堂に入っている。四奏者の心の通わせ合いがまた胸を打つ。重厚さがなくても、タカーチ四重奏団のように気にならないのは、内容がいっぱいだからだ。そして、あの感動的なクライマックス!身をよじるようなヴァイオリンの泣き節に答えて全ての楽器が収斂し、天空へと上り詰めていくようなあの音のドラマを絶妙のテンポと節回しで聴かせてくれる。ここはブダペスト四重奏団も泣かせてくれたが、それに匹敵する素晴らしさだ。終結の泣き節を絡めたゆったり目の決め方も美しかった。

 なお、このCDには録音の仕方のミスか、あるいは製造の問題か、ブシュブシュというノイズが時折入る。これは本当に残念なことで、再生装置によっては問題なく再生されるかもしれないが(現にこのCDの取次ぎをしてくれたロンドン在住のサポーターは「そんなノイズはどこにもない」と言っていた。何度も調べてくれたので彼女の言うことも間違いではないようだ。そして、LOTOS側もノイズはないと照会してくれた。良品交換してくれたが、そちらもノイズあり。むーん。日本製の装置だと合わないの?)、何ともはや。

 ウィハン四重奏団は現在ベートーヴェンの全曲演奏会を行なっている。それもチェコのプラハで。いやはや、来日してやってもらいたいもんです。

 それはそうと、いきなり「大フーガ」で始まったこの25種演奏聴き比べ。ひとまずここで一区切りすることにしましょう。


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弦楽四重奏聴き比べ <ベートーヴェン:「大フーガ」> その⑨ [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]



23. ゲヴァントハウス四重奏団 (NCA) 1997
16'04''

 少なからず驚かされたのは、その⑧で採り上げたハリウッド四重奏団と全く同じタイムであることである。それだけでこの団体が只者ではないことがわかろうというもの。前回私は書いたように、「速からず、遅からず」というテンポが16分なのである。この絶妙のテンポを若きエルベンが実践できているところにまず驚かされる。

 現ゲヴァントハウス四重奏団は1993年以来のメンバーであり、フランク=ミヒャエル・エルベン、コンラート・ズスケ、フォルカー・メッツ、ユルンヤーコプ・ティムという布陣であり、1995年にはベートーヴェン全曲チクルスを行なった。演奏してみて彼らが学んだことは聴き手に音楽の緊張を与えるのではなく、音楽の豊かさを感じさせたいということだったという。かくして、伝統から学んだ正当性と自発的に学び取った現代性を加味した模範的演奏が完成した。

 この「大フーガ」ではまったく雑音をたてず、三連音符を打ち込むテクニックに脱帽である。カヴァティーナもそうだが、彼らの響きはドイツの団体にしては柔らかく、それでいて透明であり、和音の溶け合いの見事さが光る。フーガのひとつひとつがけして荒びることなく、格調と気品すら漂わせつつ美しく響いていく。それも構築美を輝かせながら!緩やかな部分の美音の氾濫はいかばかりであろう。何とベートーヴェンは美しい音楽を書いたのだったか!14番や16番では若干外面的な美しさのみが際立ったような印象を受けたのだが、この「大フーガ」では音楽と演奏とが完全に調和している。クライマックスの神々しさも絶品であり、これと同じ体験をしたのはヴェーグ四重奏団の再録音盤以外に存在しない。ヴェーグ四重奏団と違うのはエルベンの繊細かつ芯のある抜けきった美音である。最新録音でこんな美しい演奏があるとなると、ズスケもターリヒも分が悪い。

 これは超名演奏である。 現代の全集としては真っ先におすすめしたい。

 なお、以前出回っていたセットは、ボックス取り出し口に三角の切れ込みがあり、箱の裏の社名の欄に2003という表記があった。これはひどい代物で14番の終楽章に大きなノイズが混入していた。最近出回っている新プレスでは改善されている。どうやら初期盤の不良だったのだろう。ただし、初期盤の音質が耳に優しい柔らかな響きだったのに対して、現行盤はヘッドフォンなどで聴くと聴き疲れがする。音が引き締まり、高音がきつく、どこかの帯域がカットされたような・・・。

 以前出ていた音であれば(そしてノイズがなければ)、本当に文句なしのセットなんだけどなあ。


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弦楽四重奏聴き比べ <ベートーヴェン:「大フーガ」> その⑧ [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]

 

ハリウッド四重奏団をご存知ですか?「ハリウッド」というところがなかなか抵抗ありますわな。

ハリウッドボウル管弦楽団を指揮してライトクラシックの録音などでも名を残したフェリックス・スラットキンを第1ヴァイオリンにした四重奏団で、写真の女性は奥さんだ。日常的にカルテットをすることを楽しんでいたのが興じて、活動期間の短さと活動範囲の狭さ(アメリカ国内のみ)にも関わらず、録音は残っているほうである。

22. ハリウッド四重奏団 (Testament) 1957年録音
16'04''

 テスタメントの復刻音は手堅いほうだとは思うが、どれを聴いても同じような音だ。クレンペラーしかり、シューリヒトしかり。カイルベルトしかり。このハリウッド四重奏団の録音のリマスタリングも室内楽としては大味だ。低音がぼんつきすぎる。しかし、第1ヴァイオリンの独特の透き通るような弦の音色と艶やかと評する以外に言葉のない節回しなどは克明に蘇っている。テンポは速すぎず、遅すぎず、まことに心地よい。最初のうちは適度の柔らかさをもった緊張感のある演奏だと思ったが、次第に凄くなる。緊張感が増し、熱を帯び、劇的になっていく。それでいて古典の格調をけして歌わないのは、「大フーガ」という難曲にあっても旋律線を美しく歌うという当たり前のことをきちんとやっているからであろう。惜しむらくは録音状態だ。


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弦楽四重奏聴き比べ <ベートーヴェン:「大フーガ」> その⑦ [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]

 

18. レナー四重奏団 (SGA) 1930年録音
16'25''

 「レナー四重奏団を知っていますか」の記事に書いたので詳しくは書かないが、この演奏は録音も良好なこともあり、アンサンブルの妙、第1ヴァイオリンの甘美な歌いまわしと、格調の高い造型感覚が如実に味わえる。甘美さ、構築美・格調の高さの全てが融合した味わいは、何とも言えない。ヴォリュームを下げて夜更けに聴くと(あの晦渋なイメージの「大フーガ」が)懐かしい音楽のように感じられるほど。

19. バリリ四重奏団 (Westminster) 1952年録音
16'47''

 バリリ四重奏団はやはりええわ!と身を乗り出すも、音楽が緩やかになる頃からテンポがもってりとするようになり、そのまま冒頭の覇気は戻ることなく、ゆったりとした情緒綿々たる演奏になっていく。14番では磨かれ抜き、ウィーン的な甘美さを普遍的なレベルにまで高めようとする姿勢に頭が下がる思いをしたのだが、「大フーガ」はそこまでのレベルには達してないように思われた。とはいえ、これがウィーンのベートーヴェンなのだ。前衛的な「大フーガ」であろうと、楽譜を研究し尽し、ウィーン情緒満点で演奏してくれたことに感謝。

20. ブダペスト四重奏団 (United Archives) 1951年録音
16'26''

 録音の加減とはいえ、ステレオ録音との音の違いに驚かされる。まろやかかつ柔軟なハーモニー、憂愁さえ感じるしなやかさ。第2ヴァイオリンがゴデツキーであるが、彼一人の存在によってここまで演奏が異なるのだとすれば、相当な実力者ということになる(なお、ブダペスト四重奏団はSP時代にもベートーヴェンの弦楽四重奏曲を作品18-5を除く全てを録音している。印象はステレオ盤の演奏にうまみとアンサンブルの充実感を足したような演奏で、やはりこの50年代のモノラル録音は変わっていると言わざるを得ない)。しかし、この「大フーガ」は耳に快し、親しみやすしといえど、大きな感動を伴わない。彼らとしては突っ込んだ解釈が聴かれないのが残念でならない。ステレオ盤に至ってもその印象は変わらない。

21.ウィーン・ムジークフェライン弦楽四重奏団 (PLATZ) 1992年録音
15'43''

 何じゃこりゃ!ウィーン・フィルのコンサート・マスターであるキュッヒルが第1ヴァイオリンだから期待したのだが、甚だ満足できない。熟しきれていない、酸っぱすぎるりんごをかじったような気持ちになる演奏で、音色の艶の良さ、新鮮さはあるのだが、アンサンブルも雑だし、うまみや情感、感情の表出、音のドラマ、精神の飛翔といった多くの四重奏団が聴かせてくれた「大フーガ」の魅力を全く聴かせてくれない。そして、ヒステリックなまでの奏し方が聴いていて辛くなる。「心技一体」という言葉から遠い演奏。同じウィーンの団体バリリが泣く。あと、ホールトーンがちょっと怪しい。エコーでは?


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弦楽四重奏聴き比べ <ベートーヴェン:「大フーガ」> その⑥ [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]

 今回は、再録音により演奏に磨きをかけ、孤高とも称するべき高みに到達しえた二つの団体を紹介する。それは、ヴェーグ四重奏団とハンガリー四重奏団である。両者のベートーヴェン全集はモノラルによる録音とステレオによる録音の二種がある。どちらかというとモノラル旧盤の評価が高いように思うが、「大フーガ」に限っていえば、ステレオ録音の完成度は「究極」である。

14. ヴェーグ四重奏団 (Naive) 1972年録音
15'35''

 まことに高潔な演奏である。格調・厳格さを併せ持ち、ひたすら無心にベートーヴェンの魂に接近せんとする演奏であり、これまでの演奏団体が聴かせてくれた様々な感情的側面を全く削ぎ落としていくような、ノミで身を削っていくような演奏である。無駄がなく、枯れ切った印象さえない。あの泣けてたまらないクライマックスさえ、ひたすら高みへと上り詰めていくようであり、こんな演奏は今までなかった。あのブダペスト四重奏団でさえここまでの高みには達していない。彼らの演奏はやや晦渋すぎた。ヴェーグ四重奏団のそれは厳しい演奏ではあるが、けして晦渋にはならず、聴く者の胸に直接突き刺さってくる。これは凄い。ズスケやターリヒと比較云々するタイプの演奏ではない。目指すところがまったく違う。

 あまりに厳しい演奏であるがため、聴き手を拒絶するような孤高さがあり、その緊張感には圧倒されずにはおれない。背筋がぴーんと伸びる。ベートーヴェンの後期四重奏曲を神品とする者には、超名演だろう。ただし、これは、日に何度も聴くような類の演奏ではない。

15. ヴェーグ四重奏団 (M&A) 1952年録音
16'42''

  再録音が無駄を切り詰めるまで切り詰め、ひたすら求道的な高潔な演奏であるのに対し、こちらはまだ素朴さと情緒がこもり、まだ音楽を聴かせてくれようとする趣がある。遅いテンポでじっくりと運んだ演奏である。いささかもだれるところがないのは偉とすべきだ。ただ、再録音と比べると同じスタイルとしてはまだ昇華されきっていない中途半端さがあるかもしれない。それに冒頭はいくらなんでも粘りすぎのような印象だ。

16. ハンガリー四重奏団 (EMI) 1966年録音
15'07''

 デッドな音だが、EMIとしては音が聴きやすい。ヴェーグ四重奏団と同じく、無駄を削ぎ落とし、ひたすら精神の音を聴かせてくれる演奏である。ゆるやかな部分は速いテンポで如何にもはかなげに奏する。
録音がやや荒れるのが残念だ。最初はヴェーグ四重奏団のほうが良いかなと思っていたが、どんどん集中力が増し、緊迫し、クライマックスまで一気呵成に聴かせる。しかし、時折ユーモアを感じさせる表情を聴かせるのがうまい。ヴェーグ四重奏団もハンガリー四重奏団も構築美や音の美しさとかそういったものを超えたものがある。この二つのステレオ録音は、「大フーガ」の演奏の中でも、奥の院という感じがする。

17. ハンガリー四重奏団 (EMI) 1953年録音
14'29''

 今まで聴いてきたどの団体よりもタイムが速い。冒頭はふわっと始め、第1フーガもずっしりとした刻みで威厳たっぷりだ。この部分は再録音と比べると、訴えかける力が全く異なる。ゆるやかな部分に入ると小気味良いテンポで運ぶが、新盤に比べると何となしに流している感じで、心に残らない。テンポ感もそれほど良くないように思った。ふたたび、快活なフーガに立ち戻ると如何にも朗らかな風情を一瞬見せ、その後はやはり凄い集中力と緊迫だ。ぐいぐいと語りかけてくる。しかし、それも再録音盤と比べるとまだ完成されているとはいえない。肝心の箇所で彫りが浅くなり、せかせかした印象を受けるからだ。この点はスメタナ四重奏団によく似ている。

 いやー、とにもかくにも、ヴェーグ四重奏団の再録音は凄い。今はこれだけしかいえない。


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