SSブログ

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第15番 変ホ短調 作品144 [ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲]

 ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲の中で、一番好きな曲を三つ選びなさい、と言われたら、11番、13番、15番を選ぶと思う。特に15番に対する思い入れは深い。ショスタコーヴィチに関しては、この曲を感動的に演奏できる団体にしか興味がない。

 ショスタコーヴィチが最後に書いた弦楽四重奏曲であり、彼の遺言のような曲だと思う。1974年には「私はもはや献呈はしたくない。(中略)死が私を取り巻いている」と語り、一部にはショスタコーヴィチはこの曲を8番と同様、自分自身に捧げたという話もある。

 「悲歌」、「セレナード」、「間奏曲」、「夜想曲」、「葬送行進曲」、「エピローグ」という楽章からなり、アタッカで続くアダージョ楽想というもの。

 「悲歌」は回顧的で懐かしい旋律が延々と繰り返され、内面に沈み込んでいくような趣がある。一転、「セレナード」になると、個々の楽器は一つの音を次々と引き伸ばしていく。セレナードなどではない。魂の叫びやうめきのような音楽であり、まるで思い出したくない過去の場面が次々とフラッシュバックするようだ。「間奏曲」はその悲しみに頭がおかしくなる思いだ。「夜想曲」になってやっと音楽は音楽らしい魅力的な旋律を奏でるけれども、「葬送行進曲」の絶望そのものといった諦観のモチーフによって完全に打ち消される。「エピローグ」は身をよじるような悲しみを歌い、音楽は静かに深遠へと沈んでいく。

 ボロディン四重奏団の「セレナード」は不吉なほどの美しさを持っているし、「葬送行進曲」も彼らの演奏は血も涙もないような透徹した響きを聴かせ、ことさら印象的な演奏である。

 ところで、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のほとんどすべてを初演したベートーヴェン四重奏団の演奏をCDで聴くことができる。ベートーヴェン四重奏団の演奏はボロディン四重奏団やタネーエフ四重奏団と比べると、温もりのある人間の音楽を感じさせる。

 ボロディン四重奏団がショスタコーヴィチの音楽が持つ狂気や悲劇に焦点を当て、タネーエフ四重奏団はファンタジーや繊細な抒情、音楽美に重きを置くとすれば、ベートーヴェン四重奏団は「人間・ショスタコーヴィチ」を等身大に聴かせるような魅力がある。

 前二団体に比べて、もっと線の太い響きであり、そして一つ一つの音を大切にして、心を込めて演奏している。音楽は温かみを帯び、情緒すら漂わせる。ショスタコーヴィチに対する共感の念がひしひしと伝わってくる。

 「涙も出ないような墓場の音楽」という言葉は、ボロディン四重奏団の演奏には当てはまるだろうけれど、ベートーヴェン四重奏団の演奏には当てはまらない。効果というものを狙わず、ひたすらショスタコーヴィチの音符ひとつひとつを血の通った温かい音にしていく。「エピローグ」冒頭のはっとするような感情のほとばしりを聴けば、ショスタコーヴィチがこの曲を自分自身に捧げたという話も首肯しうるというものだ。

 Doremi盤、買おうかなあ。でも音質が心配なんだよなあ。

 


nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 2

うぐいす

kitakenさん、こんばんは。
昨日の今日でなんなのですが、今日はこちらにコメントさせていただきます。

ベートーヴェン四重奏団は「人間・ショスタコーヴィチ」を等身大に聴かせるとのお言葉、全くその通りだと思います。包み込まれるような温かな音色で、まるで子守唄かと思わせるような「悲歌(エレジー)」(笑)には癒されてしまいます。また他の曲になりますが、8番などは2楽章のような激しい楽章は野武士のような重く太い響きで圧倒されますが、4,5楽章あたりになると悲劇的な様相を表現しながらも戦没者(またはショスタコーヴィチ)に対しての救いというか、温かい目のようなものを感じますね。

うぐいすはDoremi盤以外の音を知らないのですが、少なくともDoremi盤はあまり良くはないですね。曲によってはステレオと言いつつ、右側の音圧が妙に低いものとかもあります。もともとのソースからそうなのか、良くわからないんですが。11番以降はそんなに悪くないですけど。
by うぐいす (2008-01-11 20:45) 

KITAKEN

うぐいす様

こんばんは!コメントをありがとうございます。

ベートーヴェン四重奏団の「包み込まれるような温かな音色」、「野武士のような重く太い響き」、「戦没者に対しての救い」というご指摘、まさしく仰る通りですね。

今日は、11番や13番を改めて聴き直してみましたが、洗練されない無骨な味わい、それに加えて古典作品を演奏するような素朴さなどにまた新たなショスタコーヴィチの発見がありました。

Doremi盤はLPからの板起こしということをどこかで見たのですが、もしかしたらそのLPの音質にも影響があるのかもしれませんね。モノラルのものを擬似ステレオにしているものもあるかもしれません。

Melodiyaのは全部復刻されていないのが残念でならないのですが、なかなか良好だと思います。
by KITAKEN (2008-01-12 03:07) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。