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タネーエフ四重奏団のショスタコーヴィチ [ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲]

 ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲といえば、ベートーヴェン四重奏団、ボロディン四重奏団、タネーエフ四重奏団の演奏が真っ先に思いつく。どの団体も作曲者との縁が深く、その解釈も他団体と比べてみると堂に入っていると思わざるをえない。

 前回は弦楽四重奏曲第9番の好きな演奏としてボロディン四重奏団の録音をご紹介した。ファースト・ヴァイオリンが西に亡命してから完成された全集盤であるが、アクが強く、研ぎ澄まされた解釈という印象の強い名盤である。ショスタコーヴィチという作曲家のつくる音楽は深刻な中にもどこか通俗的効果を狙ったところもあり、ボロディン四重奏団はそういった複雑な魅力を放つ楽想を私たちが期待する通りに聴かせてくれる。

 しかし、それを嫌味に感じる方も少なからずいらっしゃるはずで、ショスタコーヴィチという作曲はもっとナイーヴで抒情に満ちた音楽を書いた人なのだ、と批判される方もいると思う。

 タネーエフ四重奏団の演奏はボロディン四重奏団を聴いた後に聴くと、大人しい。水っぽいという印象を受ける方もおられることだろう。しかし、どこか懐かしい香りや繊細な味があり、弦のぬくもりのある音色にはっとさせられる。

 たとえば、8番の一楽章をボロディン四重奏団と比較してみれば、ボロディンがノン・ヴィブラート奏法を基調にオルガンのような響きを出し、鋭い刃物で聴く者の心を刻みつけていくような凄みがあるのに対し、タネーエフはしっとりとした抒情を聴かせてくれる。

 ボロディン四重奏団の演奏がロシア魂爆発!といったコクとキレのある演奏をしているのに対し、タネーエフ四重奏団はもっと模範的な解釈を目指しているような感がある。音楽がどんなに攻撃的になろうとも、美観をはみださない範囲での節度がある。四奏者の調和を大事にした格調がある。そしてそこからはみ出さざるを得ないアクのようなものが音楽を説得力あるものにするのである。

 音楽への踏み込みが一歩足りない、という評を見たことがあるが、それがタネーエフ四重奏団の美徳でもあり、ボロディン四重奏団とは最初から方向性が違うのだと思う。

 9番の演奏を聴いてみよう。ボロディン四重奏団を聴くと何か念力のような透徹したものを感じるのだが、タネーエフ四重奏団の演奏は、音楽としての美しさ、ファンタジー、ニヒルな表情などを聴かせ、ショスタコーヴィチの音楽を色彩豊かにしている。いざという時の訴えかける力にも欠けていない。

 三楽章のアレグレットはボロディン四重奏団の演奏が脅迫観念のように襲い掛かってくるのに対して、タネーエフ四重奏団はといえば、小気味良いアンサンブルに加えて、繊細なニュアンスを聴かせてくれる。鼻歌を歌うようなニヒルな味もあり、ショスタコーヴィチはこうも書いたのかという発見がある。

 五楽章もボロディン四重奏団が聴かせる強靭なリズムや狂的な嵐とは違う。落ち着きのあるテンポで音楽をもっと威厳のあるものにしていく。特にコーダの内容いっぱいのずっしりとした重み。ボロディン四重奏団は聴いていて身体が熱くなってくるのだが、タネーエフ四重奏団のは重厚で立派な風格がある。

 この曲に関してはベートーヴェン四重奏団も聴いてみたいのだが、メロディア盤が発売されていない。ライヴ盤もあるので、そちらも欲しいところ。全集盤ならDoremiが復刻しているが、未入手。音質が心配。

 なお、タネーエフ四重奏団はベートーヴェンの全集も録音しており、boheme盤とAulos盤とが入手可能。聴いてみたいのだが・・・。


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コメント 2

うぐいす

kitakenさん、こんばんは。
初めてこちらにお邪魔します。
その節はうぐいすのブログにコメントいただきまして、どうもありがとうございました。
ショスタコーヴィチの特集に入られたんですね。どこにコメントつけようかと思いましたが、まずはこのタネーエフのエントリーに・・・

タネーエフ四重奏団のショスタコーヴィチといえば、うぐいすはなんと言っても15番が好きで好きで(笑)。ボロディンQの冷徹さやベートーヴェンQの暖かさとは違う、孤独で寂寥感の漂う、孤高の境地だと思います。どの楽章もそうなんですが、特に4,5楽章の激しさと諦観の入り混じった曲想は他の演奏では味わうことのできない世界です。タネーエフ四重奏団のショスタコーヴィチはこれ1曲だけでもその存在意義は大きいと思います。
by うぐいす (2008-01-10 21:37) 

kitaken

うぐいす様

こんばんは!コメントありがとうございます!

タネーエフ四重奏団の演奏はボロディン四重奏団を聴いた後だと、随分大人しい印象を最初は持ったのですが、その静謐でシルキーな弦の音色、うぐいす様がご指摘された「寂寥感の漂う」演奏にビビッときました。

15番、うぐいす様が仰る通り、素晴らしい演奏ですね。ベートーヴェン四重奏団の演奏とともに愛聴盤です。Aulos盤はさらに復刻も素晴らしいですね。

ベートーヴェン四重奏団の演奏はDoremiから復刻がされておりますが、若干音質が不安です。
by kitaken (2008-01-10 23:17) 

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