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ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第13番 変ロ短調 作品138 [ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲]

 ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は聴き始めると、どんどん引き込まれてしまう。9番を聴きだしたら、8番、11番、12番、13番、14番、15番と立て続けに聴いてしまった。深刻な音楽であるが、人を惹きつけてやまない魅力があるのである。

 それはたとえば、目を向けたくないものに目を向けさせられるような、知りたくない真実を知らされるような啓示に満ちている、とでも言えばよいのだろうか。

 この13番は本当に物凄い曲だ。1970年の作であり、ベートーヴェン四重奏団の創始者の一人でもあるヴィオラ奏者ボリソフスキーに捧げられた。

 ヴィオラが終始活躍するのはそのためかもしれない。単一楽章であり、全体で五部の構成をとる。いつ聴いても沈鬱な音楽で、悲しみや絶望を音として純化するとこういう音楽になるのかと思わせる。この曲を作曲したショスタコーヴィチの精神状態を想うと、彼の魂はすでに彼岸にあったのではないかとさえ思えてくる。

 演奏は長いことボロディン四重奏団を愛聴してきたが、ベートーヴェン四重奏団の演奏もまた絶品である。冒頭から打たれる。身をよじって嘆くような悲嘆が聴かれ、ボロディンの冷徹なまでの演奏とは違い、素朴で、情緒に濡れた風情もある。ボロディンでは泣けなかったのに、私はこの演奏を聴いて初めて涙した。

 ボロディン四重奏団で聴くと白けてしまうくらい絶望的で、冷たく、恐怖に満ちた音世界が、人間の音楽として響く。それは通俗的であるということではなく、どれだけスコアが純化され、抽象世界になっていこうとも、そこに人間ショスタコーヴィチの温もりや涙を探り当てていくベートーヴェン四重奏団の類稀な才能が光っているのだ。

 限りない優しさと人間に対する愛情に溢れたこの演奏は、13番のひとつの真実を捉えていると断言する。願わくば、マスター・テープがメロディアに存在するのであれば、復刻してほしいものである。Doremi盤の音質は全く想像できないので不安だ。

 写真の盤には、11番、12番も収録されているが、これらも絶品である。 


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