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2016年5月kitakenのベートーヴェン愛聴盤 [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]

2013年11月17日にkitakenが選んだベートーヴェン愛聴盤。この更新を最後に、事実上「弦楽四重奏との歩み」は開店休業状態となりました。

アルツハイマー型認知症を患った父の介護、膀胱がんの発覚、そして看取り・・・この二年間は音楽と向き合うことよりも、家族と向き合うことが中心となった日々でした。

弦楽四重奏の世界に再び還ってきたのは、幸松肇氏による『世界の弦楽四重奏団とそのレコード』全六部冊の完成、『ウィーンの弦楽四重奏団200年史~弦楽四重奏の魅力にとりつかれた演奏家たち』(レグルス)、『レコードによる弦楽四重奏曲の歴史』(上下巻)(DU BOOKS)の復刊、という強力な援護射撃も大きいです。

これらを手にしながら、「お、そうか」「ああ、なるほど」「え、知らなかった」ということが多々ありました。

いずれも、弦楽四重奏研究になくてはならない必携書であり、ジャングルのような室内楽の世界への道しるべとなるもので、ここに声を大にして推薦しておきたいと思います。

さて、少しずつ(本当にゆっくり)、このブログも復活させていくつもりではありますが、まずはベートーヴェンの愛聴盤を大幅に改訂したいと思います。これが今の私の趣味ということになります^^

これまで皆々様からのコメントを受け付けてきたのですが、コメントは今後受け付けないことにいたします。姉妹BLOGのThe World of Kitakenも同じです。

私のスタンスはあくまで音楽の専門家でもない一介の言語学者が、気の向くまま感想を書いたり、評論家の推薦盤を聴いてみたり、専門性や独自性を狙うのではなく、ただ音楽を聴いて楽しむことにあります。

初期弦楽四重奏曲

ベートーヴェンの初期四重奏曲を聴くことは、実は少ないのです。

やはり、中期や後期のカルテットのほうが、ベートーヴェンらしい(当たり前ですが)。

でも、初期には初期の香りがあって、モーツァルトやハイドンとも違う、ベートーヴェン特有の若々しさがみなぎっていますね。交響曲やピアノ曲などと違って、もっとベートーヴェンの魅力が溢れているように思います。

中でも、4番は好きです。 

初期のカルテットで、まとめて手に入れるとすれば、バリリでしょうか。バリリはウィーンの花畑。ほっと一息つける安心感、情緒、郷愁は何者にも代えがたいですね。ただ、時に物足りないこともあるのです。バリリ四重奏団の芸術性がどんなに優れていて、どんなに深い哲学から導き出された結論だとしても、もう一つ翳りが欲しい。

ヴェーグの新旧ある全集も良いのですが、ハンガリー系の団体は4番の第二主題の奏し方に違和感があります。ですので、好きなヴェーグも、初期というくくり方をすると脱落。

意外に思われるかもしれませんが、私は初期ではアルバンベルク四重奏団のライヴ盤全集をまとめて取り上げます。非常に素晴らしい演奏だと思います。これは、初期、ということに関わらず、中期・後期のいずれをとっても、現代の弦楽四重奏の中のトップの一つだと考えます。ライヴ盤は、室内楽の録音としても、まずは理想的だと思います。

スタジオ録音では口を酸っぱくして批判したものですが、ライヴ録音で彼らの良さを知ってしまうと、不思議とスタジオ録音も楽しめるようになりました。私は今ヘルベルト・フォン・カラヤンも大好きなのですが、こうした嗜好の変化がクラシックの世界でもあるのですね。不明を恥じます。

4番は、緊迫感という点でジュリアード四重奏団。ジュリアードが巧すぎると感じられるときは、ベルリン四重奏団(ズスケ四重奏団)。5番は、バルトーク四重奏団の演奏が美しくて好きです。途中で教会の鐘の音がかすかに聞こえるのですよね^^ ただし、5番を聴く機会はめったにありません。少し変わった解釈では、ターリヒ四重奏団が記憶に残りますが、リマスタリングされてからは急速に手に取る機会が減りました。  

中期弦楽四重奏曲

ラズモフスキーの一番は、誰が何を言おうとブダペストのモノラル盤が一番好きです(SPの復刻ではなくて、LP時代のモノラル盤)。

二番はどの演奏団体も良いですが、昔悪口を言ったタカーチ四重奏団を楽しめるようになりました。シャープで、豊かな響きはあまり感じないのですが、淡く滲むように詠嘆を漂わせる技術とか、かゆいところに手が届くようなスコアの読み方に、たとえば、131番なども圧倒される思いです。

三番は、SACDということも含めてプラジャーク四重奏団を知らない方のために推したいと思います。ニュー・ミュージック四重奏団の超絶の名演奏もありますが、モノラルなので。ニュー・ミュージックは何と言っても終楽章が最速。それも上滑りしない。ジュリアード四重奏団も緊迫感があって素晴らしいです。本当に3番については、この三つがあれば他はいらない、というくらいに大満足できます。エマーソンも牙城に迫っていますが、時に音が汚くなるので、一歩喰い足りない。

三番の終楽章に関しては、アルバンベルクが意外とスローテンポなんですよね。ズスケ四重奏団もゆっくりとしている。

「ハープ」は、バリリも素晴らしいし、ゲヴァントハウス四重奏団(NCA)も素晴らしい。ブダペストのステレオ、それにタカーチも良いと思います。基本的に、どの団体で聴いても、この瑞々しい音楽は飽きが来ません。

中期をどれか一セット、とすると、ジュリアードのセッション録音が推進力と録音の鮮明さもあって好きです。

後期弦楽四重奏曲

後期というと、もう幽玄と深遠なるファンタジーの世界なので、どの全集でも一長一短です。しかし、ブダペストのステレオ録音、ハンガリーのモノラル録音、ヴェーグのモノラル・ステレオの両録音、ケッケルト四重奏団、これらは永遠に残る名盤だと思います。ヴェーグのステレオは私には晦渋すぎて、技巧の衰えが気になることもありましたが、今では孤高の名演奏と思います。

三つのセットに共通するのは、神韻飄々たる精神世界に、がっしりとした輪郭を築き上げているところ。ベートーヴェンの顔かたちがしっかり感じられるのです。

ケッケルト四重奏団はモノラルだが、素晴らしい演奏です。DGの録音の中では、メロス四重奏団、アマデウス四重奏団よりも好き。何が良いがと言えば、やはりゲルマンらしい血が流れ、ブッシュが持っているような森の黒さをやはり感じさせるところ。解釈も良いと思います。

一二番は伝説のクリングラー四重奏団、一三番はブダペストのステレオかバリリ。一四番はブッシュ四重奏団かタカーチ、ときどきブダペストやアルバンベルク(ライブ)、15番もブッシュ、アルバンベルク(セッション)、16番はジュリアードの全集録音中の演奏(セッション)かアスコーナでのライブ(Ermitage)を愛聴します。

日本人の団体として、古典四重奏団の作品131を挙げておきます。デビュー盤の、バルトークのカルテットと一緒になった一枚のほうです。彼らが後に作った後期弦楽四重奏曲全集ですが、このデビュー盤とは印象の違う演奏で、私としては彼らのデビュー盤が好きです。

一四番はシュナイダーハン四重奏団の戦時中のセッション録音もあり、Orfeoで音が悪いが、やはり四重奏好きなら聴かねばなるまいと思います。何といっても、終楽章のギャロップの刻みが胸を打ちます。


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