ハンガリー四重奏団の世界 [弦楽四重奏団]
古今の名四重奏団の中でも、傑出した団体だと個人的に考えているのは、ヴェーグ、ブダペスト、スメタナ、そして今回採り上げるハンガリー四重奏団である。
カペーやブッシュはどうした?という批判もありそうだが、個人的な好みという観点からすれば、彼らの演奏はもはや古い。不思議な話だが、さらに古いクリングラー四重奏団の演奏のほうが今もなお新鮮なのだ。その違いはちょっとわからない。
ハンガリー四重奏団はモノラルとステレオにベートーヴェンの全集を録音しているが、出来栄えは問題なくモノラル盤が良い。
ステレオのは、残響に乏しく、技巧の衰えと即物的な解釈への傾倒が著しく、とてもモノラル期の団体とは思えない。もちろん、ものによっては素晴らしいものがあるのだが。
弦楽四重奏を聴くのは、何か人生のヒントが欲しいとき、研究が煮詰まってきたとき、本を読んで心にしんみりとした湿った情感が漂うときである。
家人が寝静まり、研究で疲れた頭を休めようと何気なく手に取った。それがハンガリー四重奏団の旧盤だった。改めて聴いてみて、これは素晴らしい、と思った。
世の中では、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のうち、初期6曲はどちらというと軽視される傾向があるようだ。どことなくモーツァルトやハイドンの影響から抜け出せていない、というよりも、弦楽四重奏の世界に対して、ベートーヴェンらしい戦いが確立していないことにも原因があるようである。
しかし、何度も聴いて飽きがこない、という点では、初期の作品群は後期と並ぶ。逆に中期は、飽きが来る。「あれだけの傑作に対して何ということを!」と自分でも思わないでもないが、中期の作品には気負いが見られる。特にラズモフスキー三部作には「効果」を狙いすぎた跡がある。もちろん、だからこそ素晴らしいのだが・・・。
初期のうちの4番を聴いて、ハンガリー四重奏団の素朴でありながら、しみじみとした情感、雨水を含んでしっとりとした柔らかい土のような、独特の音色に癒された。
解釈は、後年のステレオ録音と同様に、速めのテンポを基調とした淡々としたものではあるが、この人たちは自分たちのベートーヴェンをしっかり持っていて、その揺るぎない自信の上で、ベートーヴェンが堪らなく好きであることを心から告白しているのだ、ということをひしひしと感じる。
ウィーン生まれの楽団が時に聴かせるお花畑のような風情がどこにもなく、「自分たちの言葉でベートーヴェンを語る」という結果が、普遍的な感動にまで達していることを偉としたい。
弦楽四重奏にお詳しいんですね。
うちは弦楽ソナタも弦楽四重奏も好きです。知識はありませんが。
by ayu15 (2012-02-12 11:58)