エンデリオン四重奏団のベートーヴェン全集(弦楽四重奏曲第13番) [ベートーヴェン:弦楽四重奏曲]
これは名演だ。
13番についてはこれといった愛聴盤が存在しなかったが、ついに最新録音で、しかも新譜で、満足できるCDが登場した。風邪をひいて体調が悪い身体にどれだけの栄養になったことか!
一楽章は、優秀な団体がやっても力みすぎ、リズミックすぎ、筋肉質すぎな演奏になることが多く、ヴェーグQのステレオ録音とブダペストQのステレオ録音くらいが名演と呼べるという寂しい状況だった。
私個人の意見なのかもしれないが、この楽章は寄せてはかえす波のような悠久を感じさせるものでなくてはならず、音楽は解脱と緊張と幻想とを両立せねばならない。
エンデリオンQは巧みにダイナミクスを操作することによって、この難曲の散漫と感じられかねない曲想の変化に新鮮な息吹を吹き込む。見得を切るようなタメがあったかと思うと、けしてがなりたてずに音楽のしみじみとした味わいを表出し、一筋縄ではない。
二楽章、三楽章、四楽章はとりとめもない間奏曲のような楽章であるが、エンデリオンQの解釈は往年の名演奏にひけをとらないもので、妥当な解答を与えてくれる。ことに二楽章のテンポ、三楽章の人懐っこい表情、四楽章の魅力的な主題を力みなく自然に節回す姿勢には好感を持った。
全楽章のうちでも一番印象に残ったのはカヴァティーナで、これはもうかけねなしに最高と言ってよいだろう。しみじみとした哀愁とベートーヴェンの特有の晩年期の諦観の静けさがこれほど音化された例はないと思う(全集を数十聴き比べた私が言うのだから、間違いはない(はずですが、間違っているかもしれず))。弦はストラディヴァリだと思うが、音色にはしつこい甘さもなく、にやっこい粘りもなく、テンポは遅からず、速からず。こういう演奏をこそ名演奏というべきだ。
大フーガはさすがに、ゲヴァントハウス四重奏団の神々しい名演に比べると遜色はあるが、これも一つの名演奏だ。一つ一つの音の絡み合いが解きほぐされていくような不思議な感覚はここでも健在で、魂込めと表現の美感とのバランスの取り具合が見事であり、新しいフィナーレも古き良き伝統的なアンサンブルを彷彿とさせる飄々とした楽しさがあって、魅力的だ。
書いていて不安になるくらい絶賛してしまったが、本当に素晴らしい演奏だ。広くお薦めする次第である。
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