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弦楽四重奏に見る人間ショスタコーヴィチ [ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲]

 ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を聴くようになってから、最近はショスタコーヴィチ関連の論考を読んだり、CDを楽しむ日々を送っています。知れば知るほど、ショスタコーヴィチが大好きになっていく自分がいます。

 本館のThe World of Kitakenでは、プレトニョフのベートーヴェン:交響曲全集を採り上げるなど、近頃の私はロシアづいているのかもしれません。

 ここ数日、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲をあれこれ様々な団体で聴いてみましたが、やはりボロディン四重奏団の演奏は他の演奏団体を圧するような強力な念力を持っているようです。

 コペルマンが第1ヴァイオリンとして加わって、彼らが初めて完成させたメロディア全集はその最たるものといえましょう。

 私はこのメロディア全集に愛着があり、CDでも、ビクター旧盤、BMGメロディア盤(国内盤・輸入盤)、露メロディア盤と5種も持っています。揃えるつもりで買っていたのではないのですが、それだけ好きなのでしょう、貯まってしまった。

 ところが、どうもベートーヴェン四重奏団やタネーエフ四重奏団の演奏、さらにはドゥヴィンスキー時代の彼らの演奏(デッカ、シャンドス)を聴きこむにしたがって、メロディア全集に心的距離を置くようになりました。

 メロディア全集は、極端な言い方をすれば、非人間的なまでに冷酷無残で、涙も出ないような墓場の音楽に感じられる。ショスタコーヴィチの音楽は確かにそういった点が大きな特色となっており、この純化された悲劇とでも言うべき音楽美を表現できなければ、軟弱な演奏になりかねないことは事実です。

 しかしながら、ショスタコーヴィチの音楽はそういった面だけではなく、人間的な温もりや寂しさ、純粋無垢なあどけなささえ持っているのです。

 メロディア全集の弦楽四重奏曲第13番を聴いてみましょう。これだけを聴けば物凄い音楽だなと思うことでしょう。ショスタコーヴィチとは一体どんな人なのだろう、こんな絶望の音楽を書くなんて・・・と。しかし、ベートーヴェン四重奏団やドゥヴィンスキー時代の録音を聴けば、ショスタコーヴィチは隔絶された孤高の人物ではなくて、現代に生きる私たちの心にそっと寄り添い、一緒に泣き、苦しみ、怒ってくれる人物であることが痛いほどよくわかる。

 ショスタコーヴィチの生きた時代は、想像を絶する苦悩と悲劇の時代だったのかもしれない。しかしながら、私たちの生きる時代もまた、苦悩と悲劇に苛まれているのだということをショスタコーヴィチの音楽を聴くたびに思うのです。

 ショスタコーヴィチが生きた時代と比べて、現代社会がそれほど好転していないような気さえしている私には、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲はますます現実味を帯び、あたかも彼自身の肉声を聴くばかりか、現代に生きる私たち自分の声を聴くような錯覚を覚えるのでした。


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うぐいす

kitakenさん、こんばんは。ご無沙汰しております。

うぐいすはショスタコーヴィチの弦楽四重奏はボロディンQの70年代の新全集から入りました(うぐいすの持っているCDはメロディアではなくてヴェネチア盤ですが、まあ録音状態はあんまり差はないでしょうね)。この身の毛もよだつような冷徹な表現は凄いですよね。うぐいすも初めはボロディン新盤の表現=ショスタコーヴィチと思っていましたが、ベートーヴェンQの演奏聴いてその考え方を改めました。kitakenさんのおっしゃるとおり、ベートーヴェンQの演奏で、孤高の人というだけでなく、一人の人間としての温かな眼差しを感じましたね。
あと、うぐいすはタネーエフQの演奏もある意味孤高の極みかとも思っているのですが、ボロディンQの冷徹さやベートーヴェンQの温かさとはまた違う、生の人間が味わった「苦悩」のようなものを感じます。
どちらにせよ、冷徹でクールな面だけではない点に気づかせてもらっただけで、他の演奏買った価値があったというものです。

最近バルトークの方が聴く機会が多くなってますが、ショスタコーヴィチはときどき取り出して聴くたびにひたすら頭をたれる思いにかられます。
by うぐいす (2008-02-02 22:09) 

KITAKEN

うぐいす様、こんにちは。こちらこそご無沙汰しております。

バルトークやショスタコーヴィチは一度聴きだすと集中的に聴いてしまいませんか(笑)?

聴かないときは本当に聴かないのですが、ある日引っ張り出して聴くと、どんどん同曲異演をそこら中に広げて散らかってしまいます。

ヴェネツィア盤は未聴なのですが、おそらく本家メロディアのものよりも音質が良いのではと思います。ヴェネツィアのほかの商品に関してではありますが、音質に温もりと柔らか味があり、聴きやすい音質だと思います。

タネーエフも素晴らしいですね。バタ臭いという人もいますが、私はシルキーな弦の音色と幾分客観的に捉え直したその解釈に惹かれています。ボロディンよりも抑制の効いた格調の高さを感じます。

ベートーヴェン四重奏団のはまだDOREMI盤を買っていません。買おうかな、高いしな、と躊躇しています(苦笑)。
by KITAKEN (2008-02-02 23:42) 

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