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ボロディン四重奏団のDECCA録音 [ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲]

 ボロディン四重奏団のショスタコーヴィチといえば、やはりメロディアから出ている全集とシャンドスから出ている選集にとどめを刺すのだろうが、彼らが西欧に初めて残したこの8番も聴いておきたい。

 録音は1962年。夏のエジンバラ音楽祭に招かれた際に録音された。興味深いことに彼らは1962年に三種も8番を録音している。マーキュリー(フィリップス)、BBCレジェンズ(これはライヴ録音)、そしてこのDECCA録音である。

 写真はすでに廃盤久しいキング盤である。現在も入手可能であるが、このCDのカップリングのウェラー四重奏団のショスタコーヴィチ(弦楽四重奏曲第10番)はカットされているのが残念だ。ディスク・ユニオンなどに行くと、880円くらいで売っている。見かけられることがあったら、ぜひご入手されることをお薦めしたい名盤である。

 演奏はボロディン四重奏団の同曲の録音の中でも、一番結晶化されている部類に入るだろう。ファースト・ヴァイオリンはまだロスティラフ・ドゥヴィンスキーの時代の記録であるが、Chandos盤と比べても随分印象が違う。参考までにタイムを掲載しておく。

DECCA録音 (1962)
1st 4'22'' 2nd 2'43'' 3rd 3'58'' 4th 5'12'' 5th 3'18''

Chandos盤 (1967)
1st 4'52'' 2nd 2'51'' 3rd 4'13'' 4th 5'23'' 5th 3'20''

Melodiya盤 (BMG) (1978)
1st 5'02'' 2nd 2'50'' 3rd 4'24'' 4th 5'50'' 5th 3'46''

 如何にDECCA録音がすっきりとしたテンポであることがわかろうかというもの。余分なものがいっさいなく、解釈も演奏技術も磨き上げたという感がある。

 8番が録音されてからたった二年しか経ていない時期の録音であり、新鮮さと活き活きとした前進性、曲に対する真摯な姿勢、魂からの共感に心を打たれる。録音の素晴らしさもあって、ボロディン四重奏団の音色を堪能できるのがたまらない。人間味に溢れ、土俗的な印象すら受けるのが面白い。

 一楽章のラールゴから静謐で張り詰めた空気が漂い、音符の一つ一つに血の通った力を感じる。アレグロ・モルトも鮮やかさや攻撃的な力に終わらない魅力がある。何といっても後の演奏に比べてリズムの処理に独特の味があり、音楽をドライヴしていく熱っぽさも格別である。アレグロも音楽の生々しさが素晴らしく、BMG盤では血の凍るような恐怖にしか思わせない音楽が、魂の底からの訴えとして聴こえる。四楽章のラールゴも念力のようなエナジーよりは、素朴な心の調べとしての解釈が先にあり、ダイナミクスも素朴で純真である。そして音楽は五楽章の深い悲しみと祈り、静けさの中に沈んでいく。

 この演奏と比べると、他の二種の演奏はどう感じられるだろうか。まず、Chandos盤は初々しさは消え、より情感が増し、多彩な表情が感じられる演奏である。LPの板起こしなのかもしれず、やや豊かさに欠け、音が痩せがちなのが損をしている。実際に聴けば、もっと迫真的な演奏のような気がする。そして、BMG盤は研ぎ澄まされたような殺気と霊気漲る風情が、あざといほどの効果をもたらす名演である。

 今日は本当に久しぶりに友人夫妻の家に遊びに行ったのだが、その前に中古CD店を訪れることができた。数ヶ月ぶりのことである。ショスタコーヴィチの棚を見たら、BMGからかつて出ていたボロディンの全集が、一巻だけで1万円以上の値段だった。二巻揃えると二万円?むーん。廃盤だからと言ってこれはひどい。こんなものを買うよりは、ヴェネツィア盤やメロディア盤をお薦めしたいところ。

 なお、このCDにはウェラー四重奏団の10番の演奏が収録されている。ウィーンの団体だけにお花畑のようなショスタコーヴィチが広がるかと思えば、純音楽的な美しさとスコアの読みの深さに驚かされ、本場顔負けの熱狂的な演奏(二楽章!)にビビッとくること請け合い。


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