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クラリネット五重奏曲の名盤 [ブラームス:クラリネット五重奏曲]



 ブラームスの室内楽曲の中でも特別なファンの多い作品の一つに「クラリネット五重奏曲」が挙げられるだろう。

 個人的にブラームスの弦楽四重奏曲や室内楽曲を常日頃楽しむわけでもないのだが、さらに言えば、ブラームスの音楽自体を耳にすることが少ないかもしれないが、一度プレイヤーにかけて聴き始めると感心し通しで、「人生の秋」を思わせる独特のメロディーに深い感銘を覚える。

 「クラリネット五重奏」はモーツァルトの同曲とカップリングされることが多く、両者を耳にするというのは大変ぜいたくなことである。モーツァルトの天衣無縫、神が書いたとしか思えないような奇蹟の音楽に比べ、ブラームスの場合は地を這い、私たちと同じように懊悩を抱え、苦しみぬき、淡い人生の喜びとを収斂していくような印象を抱く。どちらが優れているかというのではなく、どちらも天才の芸術で、やはり素晴らしいものである。

 超名盤の誉れ高き、ウラッハとウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のものも良いけれど、やはり今聴き直してみると録音のせいか奥行きに欠け、弦はベタついて仕方がない。シュトロス四重奏団とのものは未聴であるが、もしかしたらそのほうが良いのかもしれない。

 私はシュミードルとウィーン・ムジークフェライン四重奏団がPLATZに録れたものがとても好きだ。こういう音楽を聴くときは、演奏の細かい技術だとか解釈は置いておいて、その音楽の持つ雰囲気にただ身を浸していれば良いのであるが(そして気が付いたら眠っていた、というのが最高の娯楽)、この演奏は録音の良さもあって極上であり、演奏も張りと艶と柔らかさを併せ持って素晴らしい。

 ウィーン・ムジークフェライン四重奏団の演奏はベートーヴェンの全集とは比較にならぬほど素晴らしい。あちらでは、熟しきれずにまだ青々としている果実をほおばるような酸っぱさがあったのだが、こちらはフレッシュな印象そのもの。ブラームスの重くなりがちな曲想に軽やかさを与えることに成功している。肝心のクラリネットもテクニックも音色も申し分なく、多少スタイリッシュかなと思わせるあたりが上品だ。でっぷりとせず、妙に深刻にならず、音楽の持つ美しさと痛みを伴う甘美さとを実現している。

 この演奏の、私は三楽章と四楽章を特に愛している。

 なお、カップリングはもちろんアマデウスの同曲であり、こちらも美しい演奏である。こういう演奏ができるのに、ウィーン・ムジークフェライン四重奏団のベートーヴェンは何故あんなにひどいか。これだから演奏というものは面白い。
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