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シュルホフ:弦楽四重奏曲 第1番 [シュルホフ:弦楽四重奏曲]

 エルヴィン・シュルホフは、1894年に生まれ、1942年にバイエルン州はヴァイセンブルク近郊のヴュルツブルク強制収容所でその生涯を終えたドイツ系ユダヤ人作曲家である。生まれはプラハであり、チェコの作曲家という分類もされる。彼はジャズ・ピアニストととしても名を馳せ、ジャズのリズムにインスピレーションを受けたドイツの作曲家のひとりでもある。

 ナチスから「退廃音楽」の烙印を押され、逃亡。ソビエト連邦の国籍を取得するも、逮捕され、投獄。その翌年、肺炎によって円熟の盛りにこの世を去る。

 彼は弦楽四重奏曲を残しており、そのうちの第1番を耳にする。ギドン・クレーメルが主催するロッケンハウス音楽祭において彼の作品が集中的に採り上げられた際、イザイ四重奏団が演奏したものである。CDが発売されていたが、単品では現在手に入らない。他に弦楽四重奏曲第2番、オーボエのホリガーが加わった管楽器のディヴェルティメントもの、ハーゲン四重奏団のヴェロニカ・ハーゲンの加わった室内楽ものも収録されている。

 現代音楽という位置づけがされる作曲家であると思うが、作風は古典の形式を持ったものである。楽章は四楽章からなり、一楽章から三楽章にかけてはプレスト、アレグロ、アレグロとリズミック。四楽章はアンダンデであり、終楽章が緩徐楽章というのが面白い。

 ライヴ録音ということもあって、演奏はホットで煮え立っている。一楽章冒頭からして民俗的なえぐりの聴いたダイナミックな曲想が印象的であり、音楽はどこかショスタコーヴィチのような危機感や不安感を持っている。ただ、シュルホフの場合、それらがどうにもならないほどの寂寞や虚無の中に沈潜するのではなく、ユーモアや前向きなエネルギーの中に見え隠れするのである。楽章によってはスルポンティチェロ奏法(ヤナーチェクの項を参照)も聴かれ、この作家が古典的な作風、前衛的な作風、チェコの伝統的な音楽語法など、さまざまな音楽を消化していることが痛いほどよくわかる。結語とでも呼ぶべき終楽章は、極めて不吉な、落ち着かない雰囲気に包まれる。しかし、それでもなお、何か前向きなギラギラした力を感じる。

 時間にしても全体が15分とかからず、非常に明快な作風である。この佳曲は、もっと聴かれてよい作品であり、一度聴くと忘れられない不思議な力が漲っている。

 この時代の作曲家の中では特にショスタコーヴィチを天才だと私は思っているが、シュルホフもまたショスタコーヴィチとは違う感性によって時代を見つめ、そしてポジティヴなエネルギーを音楽に封じ込めた優れた作曲家だと思う。

 ドイツ音楽、チェコ音楽、そして現代音楽の要素が融合すると、このような弦楽四重奏が出来上がるんだなあ。面白いなあ。

 


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