レナー四重奏団を知っていますか [弦楽四重奏団]
レナー弦楽四重奏団のベートーヴェンについてまとまった演奏評を見たことがない。カルテット博士である幸松肇氏の紹介文を読むと、
「第2次大戦以前にベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を録音した団体は、このハンガリーのレナーSQしか存在しない。リーダーのイエネー・レナーは、ヨアヒムの高弟フバイからドイツ流のベートーヴェン奏法を身に付け(中略)、優美にして流麗なボウイングの美しさで人気を博していたが、この全集を耳にして頂ければ、知性と感性のバランスが整った品格の高さにも魅力があったことがお分かり頂けよう。初期では爽やかなアンサンブルが、中期では小気味良い推進力が、後期では調和のとれた構築美が神々しい輝きを放っている」(『クラシック名盤大全 室内楽曲篇)
とある。
SP復刻の技術はノイズリダクションなどを行なっているため、現在の復刻技術の観点からすれば写真にあげた新星堂盤の音質は最上ではないかもしれない。また、録音状態は曲によって盛大なパチパチノイズが激しかったり、ぼやけた芯のない音のものもある(1926年代録音など特に)。しかしながら、年代を考えれば驚異的に良いのであろうし、戦前の名カルテットといえば、カペーかブッシュという方には是非聴いていただきたい逸品である。
昨夜久方ぶりに彼らの演奏を聴いてみた(15番の数楽章と「大フーガ」)が、そのふっくらとした柔らかさと第1ヴァイオリンのヴィヴラートがかった歌いまわし、甘美なポルタメントにほっとした。通例、このような演奏方法は必ずしもベートーヴェンの音楽にはそぐわないかもしれないが、レナーはじめとする四奏者が心技一体となっているため、ベートーヴェンが作曲した音楽の堅牢な構築を犠牲にせずに、様々な情感を明るみに出すことに成功している。
聴き比べとして「大フーガ」を連続して取り上げているが、これだけ「大フーガ」を晦渋なものとしてではなく、後期弦楽四重奏が持つ大きな魅力の一つ、その幽玄夢幻とでもいうべきファンタジーとして聴かせてくれたのは、レナー四重奏団だけであった。
ヴェーグ四重奏団の新盤と並んで、まさしく別次元に位置する演奏として広く紹介したい。
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